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文豪擬キ

元々は確か しがない物書きの一人だった

文才はそこそこ 有った気がしたけど

時代が僕の翼を引き千切った

 

書けども書けども 検閲の嵐で

締め切りに追われて 特高に追われて

自分の作品を墨で塗り潰す日々が続いた……

 

そのうちに疲弊して 矜持も忘れた

当たり障りの無い言葉と綺麗事を並べて

陳腐な小説モドキを 量産した

 

本当はもっと売れたかった

書きたかった文が在った

世界中が驚く程 センセーショナルな物語を

魅せたかった……

 

そんな刻 出逢ってしまったのが 妖しい此の店...

占いの館でも 骨董品店でもない

喫茶店に似ているけれど 客が居ない

其れが『孔雀堂』なのだ

 

僕は願った

どうせなら... 歴史に名を残した大昔の文豪の様に

此の国に 街に名を馳せる 文豪に成りたい!

 

僕の邪心を店主は嘲笑いもしなかった

一つ頷くと 世界を変えて見せたのだ

相変わらず僕は 特高に追われているけれど

誰もが知る大作家に成ったのだった!

 

先生... 先生...と呼ばれた 若造の僕なのに……

然し 直に慣れてしまって 感性が歪んだ

 

僕は暫く 名声の代償を理解していなかった──

 

他者の栄光を纏って 文豪モドキに成ったけれど

本当に遣りたかったのは... 僕の願望の真実は...

世界を魅力する事じゃなく……

唯... チヤホヤされて生きること

 

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