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舞姫

 

 

 

深く暗く澄んだ海を渡り

嘗て黄金に輝いた島国の 港に降り立った

 

誰一人 私を知らない 言葉も通じない場所で

頴悟な貴方の 肌寒い孤独を知った

 

湿度が高いのは 海が近いから?

潮風が髪を撫でて 肌を掠めて 傷に沁みる

 

心が痛いのは 愛が冷めたから?

心無い言葉で 追い払われて 追い返される

 

此処で死にたかった

貴方の国で 貴方が名を残す此の場所で

 

共に生きたかった

何もかも棄てて 投げ出して 命だけ抱き締めて

私と貴方と ……此の子と三人で

 

薄暗い世界で 薄汚れた私を貴方が見付けて

私は貴方を 炎の様に愛した

其れが一瞬で 過去になるとも思わずに

 

埃を被っている 安価な踊り子の私に

舞姫だなんて 名詞を与えて...

其れが何かの嘘でも 私は... 私は……

 

貴方を愛した……

貴方は愛してた……?

 

...苦しかったのよ ...精神が裂けたのよ 其れでも

 

私は愛していた

後悔はしていない

 

貴方と同じ孤独を抱いて 私は別の世界へと

歩いていこう

 

そう... 決めた筈なのに……

 

 

妖しい店主の 妖しい店

港の直ぐ側で 帰りしなに見付けてしまった

不思議なご縁と運命を感じて

潮風に導かれる儘 重い扉を開けてしまった

 

やり直したいことなんて 山の様に在るのだ

あの人との出逢い... 私の人生... 遡る程に

もしも父が死ななければ もしも裕福な家庭ならば

私は「舞姫」に成らずに済んだのに

 

神に縋る想いで 悪魔の囁きを受け入れた

総てを水に流して 私は選択した

彼と出逢わずに済む 幸せな人生

 

目が覚めると 何もかもが夢だったかの様で

私は綺麗なドレスに身を包んでいた

優しい父と母... 美しい生活... 新しい人生

 

初めは罪悪感に苛まれたけれど

記憶は徐々に薄れていって きっと

私は長い長い夢を視ていたのだ

そう言い聞かせた……

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