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胡蝶の夢

嘗て 美しい夢を視た...

白昼夢だったのか 夜の夢だったのかさえ
定かでない夢
夢を夢と自覚しない夢
深く淡く朧気であり 確かに存在した幻想

白く幽玄な霧が視界を阻む夢境で
私は翅を広げ 宙を舞った
其れは散り逝く櫻の様に 消え逝く細雪の様に
果ても知れぬ此の世界で 私は蝶であった

何処からともなく 甘い香りが漂った
私は本能の赴く儘に飛び回り 好い花を見つけた
そして 此の庭の総てに気が付いた
辺りには無数の花が咲き乱れている

東には鬱金香... 南には蓮華...
西には曼珠沙華... 北には寒椿...
沈丁花が 梔子が 金木犀が 或いは蝋梅が香る
時間の流れの強い場所──然し我々には解らない

四方四季の楽園 一天四海を閉じ込めた箱庭
此処は蝶の夢の中 私は私であって 私ではない

そして目が醒めたとき
目が醒めていないことに気が付いた

私が私だと認識していた ヒトガタの存在は
眠った蝶の夢の中に棲む... もう一人の彼女

蝶は優美に舞った
私を支配する魂を背負い 重力から解放される
自由な蝶の夢が 私と云う幻想なのか 其れとも
私の夢の中で 蝶が飛んでいるのだろうか……

私は存在する
然し... 実在することは 誰にも証明出来ない

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