top of page
宝石
公国で多発している誘拐事件──
その魔の手が迫るまで 他人事だと思っていた
被害者は老若男女 出身地も職業も無作為
唯一の共通点は 「宝石の民」
加害者と思われる空賊は
追えども追えども 足が付かない
被害者の周辺で取材を重ねる日々
どこか空疎で 進展は見込めなかった
被害者の行方は 一件たりとも明らかにならず
死体さえ一体も 見付からない
家族や恋人や友人を誘拐された人々の心情は
幾ら想像しても 計り知れない
それでも結局... 傲慢に 解ったことにして
記事を書いては 涼しい顔をしていた
自分の妻が誘拐されるまでは──
それからの取材は捜査気取りで
死に物狂いで行った
それでも被害者も加害者も見付からず
時間だけが 唯... 過ぎていった……
唯一 得られた有力な情報は小さな町の噂話
今はこれに賭けてみるしか なかった
老舗の宝石店『輝石堂』──
石は主を選ぶ...
だからこそ俺の商品は美しい
幾ら大金を積まれても
不遜な輩にはお引き取り願おう
解る者は解る... 解らない奴は一生解らない
だからこそ輝石堂に並ぶのは
公国の至宝で採れた原石を
丁寧に加工し 厳選した最高級の宝石
立ち止まれない──無論 引き返せない
強引な歯車に巻き込まれて 走り出した
俺の知らない所で 物語は始まっていた
それを俺のものにする冒険も始まっていた
bottom of page