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日記

 

 

祖父の日記に残されなかった 空白の一日──

 

祖父は真面目な性格だった

研究者ではなかったが 神話の話をよくしてくれた

それが今の自分の 原点になっている

その思い出を補完してくれる 祖父の日記

 

 

民族間の争いは日に日に 熾烈に苛烈に

我等 宝石の民は 追い詰められ疑心暗鬼

 

宝石の民は持てる力の全てを使い応戦

小国の民にも 疑心の輪は広がっている様で混乱

 

小国の民の子の身体に 宝石が見付かる

彼は「化け物」「裏切り者」と罵られ姿を消す

 

 

ここまでが争いの記録

翌日の記載はなく 突然 日常が始まる

そして “何者かによる誘拐事件の頻発”が始まる

争いの歴史は まるで削除 そして新しい日々が始まる

 

 

昨日 隣町で幼い娘がひとり

何者かに 誘拐されたという話を聞いた

 

今日はこの町で誘拐事件が起きた

犯人の特定が急がれるが 容疑者が見当たらない

 

犯人は捕まらず 憶測だけが飛び交っている

新聞は昨日の誘拐を大々的に扱っていた

 

 

この平和の訪れは 不自然そのものだ

時代の境目を知る者が それに少しも触れず

一枚の白紙の後から 日常を綴る日記

誰かの意図に繋がれ繰られる 箱庭と人形の様に……

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